travel armenia geghard monastery
世界最古のキリスト教国、アルメニアをご存じでしょうか？
アルメニアには聖遺物（注）のなかでも最高クラスの「聖槍」が保管されています。
この顛末には、興味深い歴史的背景がありますので少しだけお付き合いください。
＊ 聖遺物：宗教の崇拝対象としての教祖などの遺骨や遺品。キリスト教では各教会が聖遺物の収集に奔走し、ときには争いにまで発展した。
アルメニア共和国は隣国ジョージア、アゼルバイジャンと合わせてコーカサス３国と呼ばれています。
地図で見るといずれも小さな国ですが、なかでもアルメニアは最小で関東地方よりも少し狭い国土です。
一方、アルメニアという名前は前１４世紀に登場する歴史ある地名で、かつては現トルコの東側を含む広大な地域でした。「ノアの箱舟」が漂着した？有名なアララト山（標高5137ｍ）も古代アルメニアの聖山ですが、今はトルコ領内にあり、アルメニア人は国内各地から見える聖山を複雑な思いで眺めています。
長大なアルメニア史における歴史的エポックは、世界最初のキリスト教の国教化にあります。
紀元301年に国教に定めており、カソリック教会の土台となるローマ帝国の国教化（392年）と比べても、初期キリスト教（注）における影響力は計り知れないものがあります。
＊初期キリスト教：紀元1世紀後半の新約聖書成立までを原始キリスト教として、それ以降から３世紀頃までを呼ぶ。
カトリックなど西方教会の情報が圧倒的な日本では、東方教会に属するアルメニア教会は馴染みがないと思います。しかし東欧から中東における地位は確固たるもので、総本山のエチミアジン大聖堂（注）を頂点として世界に500万の信者がいます。現アルメニアの人口が300万ですからその国際性の高さが伺えます。
＊エチミアジン大聖堂：首都近郊にある世界最古のキリスト教会。
伝承によればイエスの直弟子、すなわち12使徒のバルトマトイとクダイ（タダイ）（注）が布教に訪れたといいます。そして二人にちなんで教会の正式名も「アルメニア使徒教会」としています。
＊クダイ：ユダ・タダイと呼ばれ、イエスの兄弟？ユダ・トマスとの歴史的な混乱がある。
やっと本題ですが、アルメニアの「聖槍」はこの時に使徒クダイがもたらしたものだといいます。
周知のように「聖槍」とは聖書に登場する最高の聖遺物で、磔刑台のイエスの死を確認するため兵士が脇腹を突いた槍です。しかし困ったことに、「聖槍」については世界複数の教会が所持を公にしています。
それぞれの「聖槍」の真偽は不明ですが、アルメニアの「聖槍」は長らくゲガルド修道院に保管されていたようです。世界遺産のゲガルド修道院はアルメニアでも古い修道院で、初期キリスト教時代に開設されています。しかも「ゲガルド」は「槍」を意味しており、そのものズバリなのです。
アルメニアにはたくさんの有名な教会があり、それぞれ歴史・建築において必見の場所ですが、なかでもゲガルト修道院は山奥に孤立した秘境で、断崖に穿たれた洞窟寺院をベースに増築を重ねた独特な空間です。「聖槍」もその洞窟の奥深くに保管されていたといわれます。
19世紀初頭にロシアの占領によって「聖槍」は一時隣国ジョージアに移されたのですが、その後アルメニアに返還され、以降はエチミアジン大聖堂の博物館に保管され現在に至っています。
上写真：エチミアジン博物館に所蔵されるもう一つの至宝「ノアの箱舟の木片」
数奇な運命をたどった「聖槍」ですが、真偽はともかく圧倒的な歴史の古さは疑いようがありません。
しかも普通は教会の奥に保管される聖遺物が多いなか、この特級の聖遺物は自由に見学できます。
「聖槍」に限らずアルメニアは見どころ満載で、飲食も素晴らしいのでおススメの旅先です。
またの機会に他の場所をご紹介したいと思います。
