ドラケンスバーグ 南アフリカ 古代岩絵第2回 

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バトル・ケーブ ドラケンスバーグ 世界遺産 南アフリカ

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バトル・ケーブ シャーマンの仕事

前回に続き古代岩絵の謎解きです。場所は前回と同じドラケンスバーグの別サイトをご紹介します。

南アフリカ ドラケンスバーグ 地図
レソト東国境の薄青の地域がドラケンスバーグ 南アフリカ

この国立公園は南アフリカの内陸国レソトの東国境に沿う南北158km、最大幅28kmの三日月形の大山脈です。そこには標高3000m級の峰々が並び、「竜の背」のように見えることから「ドラケンスバーグ(竜の山)」と名付けられました。

竜の背中に似た山並みから。ドラケンスバーグと名付けられた

この地域ではブッシュマンの祖先が4000年以上にわたって岩絵を描き続け、発見されただけでも総数3万点を越えます。特にケーブ(洞窟)やシェルター(庇状にせり出した岩壁)と呼ばれる岩絵密集地は、重要な先住民の聖地で山々の奥深くに潜んでいます。そして、それぞれ独創性に溢れる独立したギャラリーです。

険しい山の奥に位置する古代岩絵 バトルケーブは中央山塊の日陰になった絶壁にある

今回はそのひとつ、バトル・ケーブをご紹介します。

この岩絵サイトでも複数の場面が展開しますが、その中の連続した3面が戦闘シーンに見えるので、バトル(戦闘)・ケーブと名づけられました。

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バトルケーブの名前の由来になった3つの場面

① 中央パネル(下に拡大写真):まさに戦闘シーンのようです。男性たちが向かい合い、弓をつがえたり、武器を手にしています。また空間には矢印や線状のものが飛んでいます。

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① 上の中央パネル 拡大写真 細かなディティールが描かれており、空中の矢印や線も明瞭

② 左パネル(下に拡大写真):右上の男性は矢束を背負って右隣の中央パネルに向かい、その下の男性も同様です。また下部の3人の男性も中央に向かって走っています。

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②③ 3場面の左パネル 右半分は中央パネルに向かい 左には女性が見える

③ 左パネル左部分(下に拡大写真):解読の鍵となる重要なシーンです。上側は女性二人が一人の男性を抑え、下では斧を持った男性を女性が制止しています。女性の胸には乳房が下がっているので性別が分かります。絵の摩耗のため不鮮明ですが、男性にはペニスがあり棒状の留具がついています。

③ 上の写真部分拡大 上図では2人の女性が、下では一人の女性が男性を抑えている

このふたつのシーンから、この場面全体がトランス・ダンスを表していると分かります。トランスとは忘我や恍惚、または自失状態のことです。

ブッシュマンの社会では、訓練されたシャーマンがダンスを通じてトランス状態に入り、意識を別世界に移動して任務を果たします。任務とは雨乞いや病気治療、狩猟祈願、遠隔交信など広範に及びます。
しかしトランス状態は非常に危険で、しばしば自傷行為が起きるため周囲の人々が抑制します。この場合は女性たちが抑制役です。なおペニスの留具もトランスの抑制を象徴します。

トランス・ダンスでは様々な道具を使用しますが、狩猟具も一般的なアイテムで岩絵にもよく登場します。ですから①の飛翔体は弓矢ではなく「潜在力」の描写で、忘我のシャーマンが見た視覚描写ではないかと思われます。

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バトルケーブの立地風景 ケーブというよりシェルター 断崖までの道のりは険しい

そもそもブッシュマンは裸で戦いをしません。くわえて元来穏やかな性格で、同族間の戦争記録もありません。集団での移動生活をしていたので、人的トラブルが起きれば自然に離散して、落ち着いたら再合流するという賢いスタイルでした。

バトル・ケーブではもうひとつ面白い場面が見られます。

「妖精」と名づけられた作品は、尖がり帽子状のキュートな人物像が名称の元になっていますが、実はこれもシャーマンの変身変化の類例です。動物変身は前回お伝えしましたが、変身変化中に頭頂部が天から引っ張られる感覚がシャーマンから報告されています。つまりこの尖がった頭は、引っ張られて伸びた頭部です。また彼らの腕は翼に変化しています。これらを総合すれば、シャーマンの別世界への飛翔記憶の再現です。

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「妖精」と名付けられた不思議な場面

ブッシュマンの古代岩絵は、シャーマニズムに関連する主題が多く、歴史や人類学の記録をたどることで岩絵解読につながることもあります。

17世紀に移住した白人種は、狩猟採集民ブッシュマンを単なる無理解から差別と迫害をくわえてきました。しかし現在、ブッシュマン世界への新たな理解が、物質文明に汚染された現代へ警鐘を投げかけています。その研究に日本人が活躍したこともぜひお伝えしたいと思います。

次の岩絵解読は「岩面裏の異世界」を予定しています。

参照: Fragile Heritage A Rock Art Field Guide / David Lewis-Williams & Geoffrey Blundell

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コメント

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