Travel cambodia preah vihear
国境の断崖に建つクメール寺院を訪れます。
カンボジア北部のタイとの国境は、東西300kmに連なるダンレク山地で分けられています。
この山地はタイ側は緩やかな傾斜ですが、カンボジア側は高さ数百mの切り立った断崖が続き、大地を南北に分断します。
プレア・ヴィヒア寺院はその断崖に建ち、眼下に大平原が広がる絶景ポイント。まさに「天空の寺院」たる名勝地です。
カンボジアにはアンコール・ワットはじめ多くのクメール建築があります。カンボジアに住んでいたクメール族は、9~15世紀に東南アジア最大のクメール王朝(アンコール朝)を打ち立てて、各地にクメール様式の寺院を建立しました。
その範囲は現在のタイまでおよび、国境周辺にも多くの寺院が残っています。
クメール王朝の宗教は、前期がヒンドゥー教で後期は仏教でした。したがって9世紀建立のプレア・ヴィヒアはヒンドゥー寺で、古代インドの聖山である「須弥山」を模したと伝えられます。
「須弥山」とは宇宙の中心にそびえる霊山で、インドの各宗教で共有される至高の場所です。
一般的にクメール寺院は東西に中心軸がありますが、珍しいことにこの寺院は南北に中心軸があります。
最も高い場所にある寺院本堂は南の端、つまりダンレク山地の断崖突端に建っています。ですから参拝者は、北のタイ国境付近から緩やかな登りの参道を歩きます。
参道の途中には結界をなす塔門が5基待ち構えています。塔門とは石組みの山門で、精緻な彫刻が施されたクメール美術の一級品です。
しかも参道の全長は800m、高低差が120mという壮大なお寺です。プレア・ヴィヒアはこれら幾多の価値が認められ、アンコール遺跡に次いでカンボジア2番目の世界遺産に指定されました。
プレア・ヴィヒアを語るうえで欠かせないのが国境問題です。
寺院の領有について、タイも自国領であると主張しています。
というのは、プレア・ヴィヒア付近の国境は、基本的に山地の分水嶺(最高所を結んだ線)に引かれています。しかし寺院の敷地に限っては、最高所にある本堂ではなく、北の参道を含む寺院全域がカンボジア領になっています。
国境画定に至った経緯は複雑ですが、タイ側は一貫して領有権を主張しており長らく係争になっていました。
それが再燃したのが2008年、プレア・ヴィヒアの世界遺産登録でした。些細な事件が発端となって、周辺では数年にわたる軍事衝突が起こり、死者まで出てしまいました。
かつては地形に恵まれたタイ側の交通インフラが勝っていたので、タイ側からの越境アクセスが一般的でした。実際に一度はタイ側からアプローチしましたが、ちょうど紛争中に当たってしまい国境前のタイ軍の検問で追い返された経験があります。
現在は治安問題もなくなり、カンボジア側ルートの断崖登坂路も改修され、時間さえあれば誰でも行けます。ただ相変わらずタイ側からは訪問出来ないので、こうした背景を知ったうえで、寺院から見下ろすカンボジアの大平原も、なおさら感慨深いと思います。
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