travel south africa drakensberg bushman rock art
メイン・ケーブ 岩面裏側の異世界
時間が空きましたが、再び古代岩絵の謎解きです。
場所は過去2回と同じドラケンスバーグですが、別のサイトをご紹介します。
過去記事のおさらいですが、ドラケンスバーグは内陸国レソトの東国境の南北158kmに連なる大山脈で、標高3000m級の険しい峰々が「竜の背」のように見えることから「ドラケンスバーグ(竜の山)」と呼ばれています。
ここでは狩猟民ブッシュマンが4000年にわたって岩絵を描きつづけ、発見分だけでも総数3万点を越えます。
特に洞窟やシェルター(庇状の岩壁)など、岩絵密集地は山奥に隠れた聖地で、見学には登山と心構えが要ります。
しかし今回は、最もアクセスが楽なメイン・ケーブをご紹介します。
洞窟はキャンプ場から徒歩約1時間強、一般観光客も簡単に訪れることができます。
Long panel
ここでも複数の場面(パネル)が展開しますが、まずはロング・パネルをご紹介します。
このパネルは名称通り長さ5mにおよぶ壮大な絵巻で、珍しいことにエランド(大カモシカ)が非常に大きく描かれています。
通常ブッシュマンの岩絵は、高精細な小型モチーフの集合で岩面を覆っているのですが、ここでは高精細性はそのままで特大のモチーフにて場面が繰り広げられています。
その左半分にエランドと、外套姿のシャーマンたちが塗り重ねられています(写真は割愛します)。
そして現在も鮮明な右半分には、エランドとシャーマンの列があります。
この右2体の大きな半獣人は代表的な作品で、レイヨウに化身したシャーマンを表します。
彼らの背の、白点の縁取りは充ち溢れる潜在力の表現で、まるで異世界への飛翔のようです。
この描写は過去記事とも類似します。
Snake Rock
そしてもうひとつ、新しい謎解きのSnake Rockです。
この岩絵は洞窟の片隅に描かれており、知らない方は見落としそうな小さな作品です。
下部の陰部分の黒っぽい蛇状モチーフから、スネーク・ロックと名付けられました。
重要なのは、蛇状の絵の右上に描かれた赤色の微細モチーフの集合です。
これらは縦に続くまるで剝がれたような岩面の変化部分(これは溝、段差、腐食だったりします)に沿って、小さな生き物が半身だけ描かれています。なかにはレイヨウの頭を持った人型も見えます。
これらの半身像は、作品完成後の岩面剥離によるものではなく、最初から意図的に描かれたものです。
結論からいうと、これら生き物は岩面裏にある異世界に出入りする化身シャーマンたちです。
ブッシュマンの宇宙観は幾重もの異世界で構築されており、それは地底界や水界だったり、もちろん天界もあります。そうした異世界は岩面の裏側にも存在しており、次元を超越するシャーマンは本作品のように異世界を行き来するのです。
おそらく異世界を旅したシャーマンの忘我の記憶が描かれたのでしょう。
この小作品は、ブッシュマンの精神世界を見事に表しています。
機会をあらためて記事を書きますが、ロック・アートのもうひとつの形態ペトログリフ(岩彫刻画)も、その目的のひとつに岩裏世界への精神集中がある、と考える研究者もいます。
かつて南部アフリカに進出した白人移民は、このような古代岩絵を「稚拙なお絵描き」との烙印を押しましたが、実はたいへん精巧で緻密なタッチの背後には、計算されたシャーマニズムとその宇宙観が封印されていたのです。
参照: Fragile Heritage A Rock Art Field Guide / David Lewis-Williams & Geoffrey Blundell