Travel botswana tsodilo python cave
今世紀はじめ、「世界最古のシャーマニズムの遺構がアフリカで発見」という小さな記事がありました。しかしこれが正式に認められると、これまでの人類史が書き換えられるかもしれません。
場所はアフリカ南部の内陸国ボツワナです。
ボツワナは国土の大半がカラハリ砂漠に覆われており、過去に紹介したオカバンゴデルタや同じ北部のチョベ川流域をのぞけば、平坦な低灌木地帯が広がる砂漠の国です。
この地平線の最果てにポツンと孤立した山地が、まるで地球のでべそのような不思議な景観を見せています。
ツォディロと呼ばれる山地群で、最大の比高がわずか400mほどですが、はるか遠くからも視認できるランドマークです。
下図にボツワナの地図とツォディロの位置を示します。ツォディロはカラハリの楽園オカバンゴデルタの西北にあって、周囲にはカラハリの低灌木地帯が広がっています。
実はこの山地はカラハリ中央部では珍しい古代岩絵の密集地で、ボツワナ初の世界遺産に指定されました。
この岩絵群については、あらためてご紹介したいと思いますが、ボツワナ大使館のウェブをご参考ください。
注:なぜか文中にオカバンゴデルタの記事も紛れ込んでます!?
ツォディロは南北12kmにわたって大小4つの岩山が並ぶ山地で、南端に最高点の比高410mの「male hill 男丘」、その北に南北長4.5kmの最大の「female hill 女丘」、さらに北に小さな岩山が2つあります。
下図にツォディロ山地の俯瞰を示します。青線はルートのGPS軌跡で、手前が公園ゲート、黄色のタグは中央がキャンプ地となるビジターセンター、画面奥が洞窟の場所です。画像が分かりにくいのですが、画面手前右のタグTsodilo Hillsは男丘の山頂付近で、ビジターセンターと洞窟は女丘になります。
遺構は女丘の奥深くに隠れた洞窟で、「python cave ニシキヘビ洞窟」と呼ばれています。1990年代に発見された洞窟で、内部に長さ6mの天然岩を加工した大蛇のような岩が横たわっています。
冒頭のニュース記事によれば、2006年に研究チームが洞窟内を発掘したところ1万余点もの石器が見つかり、その一部が約7万年前のものであったと報告しています。
そして発掘された石器に「意図的な破壊跡」が見られることから、洞窟が何らかの儀式に関係する聖所であったと推定しています。
そもそも現代人ホモサピエンスはアフリカで生まれ世界各地に移動したといわれ、その繁栄の理由の一つに約4万年前にヨーロッパで開始された「儀式」、つまりシャーマニズム的な集団精神行為があったとされています。
ですから今回の発見は、時代を3万年も古くしたうえ、人類は元々アフリカから「儀式」を携えて世界に拡散したということになります。
また近年の研究では、人類発生地はツォディロの東側にあるオカバンゴデルタ付近ではないかとも云われています。
これらを合わせると原初の人類像が新しく浮かび上がり、ボツワナ北部が重要な場所になってきます。
ツォディロへまでは砂漠の旅、四輪駆動にて唯一の施設ビジターセンターを目指します。そこから洞窟までは往復約10km、トレッキングも含め3~4時間かかるので、水場のあるビジターセンターでキャンプします。
一応、「危険な野生動物はいない」といいますが、足場の悪い岩山、鋭い枝が密生するブッシュ、それに「隠れた洞窟」ということで現地ガイドをお願いします。
深い砂に難渋しながら岩山ふもとまで四駆を進め、そこからは荒れた岩場を登ります。
約1時間半で問題の洞窟、ガイド氏が巨岩の間に隠れた洞窟入口を指し示します。
なるほど確かに見過ごしてしまいそうな「岩の隙間」です。
ガイド氏にならって、入口を構成する巨岩の急傾斜を恐る恐る滑り降ります。
確かに巨大ニシキヘビが居ました。頭部が入口を睨んでいます。
全体のフォルム、頭部の目や口は自然の造形ですが、胴に3~400本もの溝が刻まれて、まるで鱗紋様のような生命感が感じられます。
アフリカでは巨石や洞窟に対する信仰の形跡が多く残っています。確かにこの洞窟も「特別な何か」を感じさせる空間です。7万年前、原初の人類は何を願い、どのような儀式を行ったのでしょうか?
ブッシュマンの創世神話では、巨大ニシキヘビが世界を創りだしたといわれています。この大蛇は、神話のルーツに関係したものなのでしょうか。
前世紀までカラハリに実在した「地上最後の狩猟採取民ブッシュマン」。
過去記事の「ブッシュマンの古代岩絵」でも明らかなように、彼らが「高度なシャーマニズムの実践者」であったことは明白ですが、その背景には何万年もの時間があったのではないでしょうか。
現代にも引き継がれるシャーマニズムの深遠に、新たな入口としてパイソン洞窟が謎解きのヒントとなるかもしれません。