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前回に続きブッシュマンのペトログリフをご紹介します。
Dancing kudu
ここに「踊るクドゥ」という作品があります。前回のライオンマンと並ぶ有名な作品です。
図柄を見ると、前足を開脚したようなポーズの雌のクドゥが活き活きと描かれています。丸い耳はクドゥの特徴で、角が無いことから雌であることが分かります。
クドゥは、日本ではクーズーと呼ばれる(日本の動物園には居ないらしい?)珍しい動物ですが、アフリカではポピュラーな大型草食獣(レイヨウ)で、ブッシュマンにとっては重要な狩猟の対象でした。また雌のクドゥは、多産と豊穣の神聖動物と考えられ、岩絵にも頻繁に登場します。
この作品の注目点は、ピカピカに磨いて図柄を見せる技法にあります。
しかも観覧者が見る角度を変えることで、クドゥが浮かび上がったり、逆に消えたりします。推測ですが、ブッシュマンの岩裏世界への執着(古代岩絵第3回)から、本作品もクドゥが岩裏から出現するような演出ではないでしょうか。
聖なる泉
トゥウェイフルフォンテーン(twyfelfontein)とは、現地語で「疑わしい泉」という意味です。しかし実際には泉は絶えることなく湧いています。一方、地域一帯は広大な乾燥地帯ですから、泉はライフラインとして大切にされてきました。それは同時に宗教的な場所でもあり、重要な聖地であったに違いありません。
岩絵を観察すると動物や足跡にくわえ、謎めいた幾何学文様が見られます。
実は前者は最古層のブッシュマンの作品であり、後者は後代に移住したコイコイン族の作品です。コイコインはブッシュマンの近縁人種ですが、狩猟採取民族ではなく家畜を持った遊牧民です。
荒削りの幾何学文様に比べ、ブッシュマンの作品はペッキング(pecking突っつき)と呼ばれる点描で、制作には膨大な作業を要しています。
一部研究者は、ブッシュマンの岩面に対する執着心を理由に、ペッキング作業自体が岩面への集中法であり、それに伴う打音や粉塵さえも、作家シャーマンのトランス(忘我)状態への移行手段ではなかったのか、と指摘しています。
上写真: ペッキングの濃淡で動物を立体的に見せている
広大な谷に赤砂岩は無数に転がっていますが、ペトログリフは特定の岩に集中している場合がほとんどです。
これらのキャンバスの選択基準は分かりませんが、数千年も続いた文化ですから、ペインティングの塗り重ねと同じで、作家は過去作品から触発され、さらに新作を加えることで、岩面の潜在力を高め、異世界への扉を形成したのではないでしょうか。