travel south africa drakensberg bushman rock art
ゲームパス・シェルター シャーマンの変身変化
人類の祖先が残した岩絵が世界各地に点在しています。
しかし絵と私たちの間には、長大な時空の隔たりが立ちふさがり、絵に秘められたメッセージは謎めいて見えます。
ここに岩絵解読のロゼッタストーンといわれるひとつの作品があります。
始めにこの不思議な絵の謎解きに挑戦しませんか?
① 上図、左の動物はエランド(オオカモシカ)です。エランドは地上最大のレイヨウ類(ウシ科)で体長3.5m、体重1000kgにおよぶ大型草食獣です。
絵のなかのエランドは全身の体毛が逆立ち(下図)、よろめいたように後脚が交差しています。つまりエランドは死に瀕しているようです。
② 下図、エランドの右にその尻尾をつかんでいるオレンジ色の人物がいます。よく見ると、彼はエランドを真似て足を交差させ、その足先は蹄に変化しています。
パネルのさらに右に進みます。
③ 前述の人物のさらに右(上図中央)に、同色の不思議な形があります(下に拡大図)。顔は不明瞭ですがこれも人物像で、両腕を背中の後方に捻じ曲げて前屈姿勢を採っています。この苦しい姿勢は、苦痛から起こるトランス状態(恍惚、忘我)を目的として行われているようです。
上図補足説明:おおよその顔部分(青)の位置を描き加え、両腕の位置を示しました。絵の顔部分は白顔料で描かれた可能性が高く、一般に白顔料は経年変化によってもっとも早く消失します。
④ さらに少しはなれた右(下図)に、同色の人物像が立っています。彼はすでにトランス状態にあり、足先はレイヨウに変化して、体毛も逆立っていて精神エネルギーはピークに達しています。
この一連の絵巻は古代シャーマニズムを表したもので、シャーマンが瀕死のエランドから精神エネルギーを得て、エランドの潜在力を纏う変身変化が描かれています。
この地域の狩猟民にとって、エランドは最高のたんぱく源ですが、その大きさや鋭い感覚から最も困難な狩猟対象で、もはや獲物を超える崇拝対象としての憧れの動物だったようです。
自然には未知の力があります。例えばヒマラヤを羽ばたいて越える渡り鳥や、外洋から故郷の川に戻る魚類の超能力です。
本来は人間も高い潜在力を持っていました。狩猟民の超人的な視力・聴力・嗅覚、そして第六感です。その事実を現代に教えてくれるのが、アフリカ南部のカラハリにわずかに残るブッシュマンでした。
世界でも稀な岩絵密集地帯であるアフリカ南部は、古代岩絵作家の直系子孫であるブッシュマンが1万年を超えて生き残りました。
しかも近代文明と距離をおいてきたため、祖先たちに通じる身体能力と霊力の高さで西洋社会を驚かせたのです。
南アフリカのドラケンスバーグは、南アフリカの高地にある内陸国レソトの東断崖の国立公園です。もはやこの地にブッシュマンはいませんが、数百年前まで描かれた岩絵が、洞窟やシェルターと呼ばれる庇岩に数多く残っています。
岩絵研究の重要な場所で、以降この地を舞台に岩絵解読に挑戦したいと思います。
参照: Fragile Heritage A Rock Art Field Guide / David Lewis-Williams & Geoffrey Blundell